2023年5月2日に移転、オープンした沖縄県名護市にある「名護博物館」は、単なる資料の展示に留まらない、地域の人々と観光客が交流する場所。「名護のくらし」をテーマにした館内には、かつての捕鯨の歴史を物語る圧巻の骨格標本や、人々の知恵が詰まった民具が所狭しと並びます。一歩足を踏み入れれば、やんばるの豊かな自然と人間が織りなしてきた深い物語が動き出すはず。そんな名護博物館の魅力を紹介します。
目次
新しくなった名護博物館は、名護市大中の豊かな緑に囲まれた場所に位置しています。かつての旧館に比べ敷地面積が大幅に拡大し、館内だけでなく屋外にも「くらしの実践・体験エリア」や「自然と人との共生エリア」が広がる、まさに「フィールドミュージアム」のような空間です。
2階の常設展示室は「名護・やんばるの生活と自然」をテーマに、山・里・海のつながりをダイナミックに展示しています。また、1階は無料で利用できるギャラリーやライブラリーがあり、誰でも気軽に立ち寄って地域の情報に触れることができる、開放的な造りとなっています。
名護博物館の本館1階および屋外展示(古民家周辺)は無料で利用できますが、2階の常設展示室は以下の観覧料が必要です。

出典:名護博物館HP
小学生未満は無料。名護市民や近隣町村(やんばる地域)の住民には、お得な割引料金が設定されています。観覧券は券売機で購入します。
名護市は、古くから良質な水に恵まれた「お酒のまち」としての側面を持っています。1階のフリースペースでは、沖縄本島北部の各酒造所で作られている「泡盛」の数々がずらりと展示されています。
ラベルのデザインからも酒造所の個性を感じることができますね!
さらに、名護に工場を構える「オリオンビール」や、北部で親しまれている「ワイン」など、地元の産業を象徴する飲料文化についても詳しく紹介されています。やんばるの豊かな自然が育んだ豊かな飲み物の歴史は、この土地の食文化を知る上で欠かせないピースとなっています。
モニターには泡盛づくりの映像も流れていました。
名護博物館の目玉とも言えるのが、吹き抜けの空間を悠々と泳ぐような姿で展示された巨大なクジラの骨格標本です。
名護ではかつて、イルカや小型のクジラを総称して「ピトゥ」と呼び、名護湾に迷い込んだピトゥを村人総出で捕獲する「ピトゥ漁(ヒートゥ漁)」が盛んに行われていました。
可愛いピトゥ(イルカ)もかつて貴重なタンパク源であり、その恵みに感謝し、大切に分け合ってきた名護の人々の暮らしと海の深い絆を学ぶことができます。
展示室では、当時の漁の様子を伝える貴重な写真、道具を見ることができます。
沖縄自動車道許田ICを降りて、道の駅を過ぎ世冨慶交差点の手前にピトゥがいました。「ようこそ 安全なイルカの里へ」。ちなみに裏側には、「ゆっくり走ろうやんばる路」となっています。
名護漁港の入り口にもピトゥがいます。
名護漁港の食堂にはピトゥ炒めがありました。店内に入り聞いてみるとピトゥ炒めは常時あるものではなく、取材時は残念ながらありませんでした。最近では、ピトゥを食べられるお店があまりないですが、見つけたらチャレンジしてみてはいかがですか?
参考までに、名護の方々から情報を集め、名護市営市場に近い「居酒屋 春海」で食べられます。満席のため食べられませんでしたが、間違いなくありました。
名護の歴史を語る上で欠かせない偉人が、「名護聖人」と仰がれる名護親方・程順則です。旧名護博物館の前には今でも名護親方・程順則の座像があります。程順則(1663年~1734年)は、那覇の久米に生まれました。近世の沖縄を代表する政治家であり、文学者です。1728年、66歳の時に名護間切の総地頭職となり、名護親方といわれていました。親方とは琉球王国の称号の一つで、王族の下の琉球士族が賜ることの出来る最高の称号です。
程順則は生涯5度にわたり、渡唐(中国)しました。1706年の4度目の渡唐の際、「六諭衍義(りくゆえんぎ)」と「指南広義」を持ち帰り、のちに「六諭衍義」はのちに、江戸時代庶民の教科書として全国的に普及します。
孝順父母、尊敬長上、和睦郷里、教訓子孫、各安生理、毋作非為(父母に孝順にせよ、長上を尊敬せよ、郷里に和睦せよ、子孫を教訓せよ、各々生理に安んぜよ、非為をなすなかれ)」の6言を指し、後の教育勅語にも影響を与えました。
程順則の実母と岳母の厨子甕(骨壺)があります。
名護親方(なぐうぇーかた)は名護市の公認キャラクターになっていて、右手には六諭を持っています。
塩田。マース(塩)は生活に欠かせないもの。屋我地島において古くから入浜式製塩法でつくられていました。
猪垣(シシガキ)は集落のはずれと山の境界につくられました。農作物を守るため猪の侵入を防ぎました。実際は2m位の高さになります。このコーナーのモデルは大宜味村のもので古い石灰岩が積まれています。
こちらはタンカユーエー。「タンカーユーエー」とは、数え年ではなく「満1歳」の誕生日を祝う沖縄の伝統行事です。「タンカー」は満1歳、「ユーエー」はお祝いを意味し、親戚や友人が集まって盛大に祝うのが一般的です。
最大の見どころは、赤ちゃんの前にさまざまな道具を並べ、どれを最初に手に取るかで将来を占う「タンカー占い」です。お米や本、筆やそろばんなど、最初に赤ちゃんが手に取ったものによってそれぞれの意味があるとされています。
沖縄の結納。カタハランブーとサーターアンダギー。「サーターアンダギー」は、黄金(クガニ)魂(ムドシ)とも呼ばれ、女性お腹の部分をを意味しています。昔から、女性が丈夫で立派な子どもを産むと、よくできた子どもたちを産みわける立派なお腹だといって、世間一般では「黄金腹(クガニワタ)」と褒めていたそうです。
「カタハランブー」は、「カタハラ(片方)」が「ンブー(重い)」の名の通り、片側が膨らんでいて、もう片方が薄い形をしています。サイズは、女性の手の平ほど。薄い部分はパリパリしていて、膨らんでいる部分はもちもちです。甘くはなく塩味といったところでしょうか?
女性の象徴の「サーターアンダギー」に対して、「カタハランブー」は男性の象徴とされており、男性の精巣を意味しているそうです。なので結納の時には、子孫を繁栄させることを祈願して、女性宅に届けます。
◆サーターアンダギーは沖縄の結納には欠かせない「伝統菓子」の記事はコチラです。
こちらはカジマヤーの写真。「カジマヤー」は、沖縄で最も盛大に行われる長寿のお祝いの一つで、数え年で97歳を迎えた際に行われます。「カジマヤー」とは沖縄の方言で「かざぐるま」のことをいい、「風回し」からきていると言われています。
また明治時代頃までカジマヤー祝いは、模擬葬礼だったともいわれています。カジマヤーを迎えた方に死装束を着せて、模擬葬式の儀式として、集落7つの四辻(今でいう十字路)を回り、お墓まで連れて行ったという記録もあり、カジマヤーの名称も「風車」ではなく「四辻」からつけられたものという説もあるそうです。
◆「カジマヤー」97歳の生年祝いはオープンカーで盛大に!の記事はコチラです。
名護博物館の大きな見どころの一つが、「くらしの実践・体験エリア」にある、忠実に再現された「古民家」です。赤瓦屋根、フクギ囲い、ひんぷん、井戸などが再現され、昔の生活空間を体感できます。
この部屋は、沖縄の古民家において一番重要な「一番座(イチバンザ)」と「二番座(ニバンザ)」です。正面奥、向かって左側に見える棚は、沖縄の家庭の精神的柱であるトートーメと呼ばれる仏壇です。沖縄では先祖崇拝が非常に重んじられており、家の中でも一番良い場所(二番座の正面)に仏壇を配置します。
写真の右側、床の間(トコノマ)がある畳敷きの空間が「一番座」です。一番座は、お客さまを招き入れるための最も格式高い応接間です。床の間には季節の飾りや、写真のように「泡盛の大きな甕(カメ)」などが置かれることもあります。沖縄の家づくりにおいて、家の顔となる空間です。
この古民家に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした風が通り抜ける「雨端(アマハジ)」や、家の中心に鎮座する「火の神(ヒヌカン)」を祀る台所など、名護の人々が自然の厳しさと共生してきた工夫を至る所に見つけることができます。
【車でのアクセス】
ルート: 那覇市内から沖縄自動車道(高速道路)を北上し、許田ICで降ります。その後、国道58号線を名護市街地方面へ進みます。
所要時間: 那覇から約1時間10分(交通状況によります)。
駐車場: 博物館の敷地内(正面口付近)に駐車場があります。
【バス(公共交通機関)でのアクセス】
高速バス: 「高速バス(111番または117番)」に乗車し、名護市役所で下車します。
名護市役所バス停から名護博物館までは、1.9kmタクシーで約5分、徒歩で約25分〜30分ほどです。
名護市役所バス停にはタクシーは待っていませんので、GOやDIDIといった配車アプリを使うと便利です。
所要時間: 那覇から約2時間30分前後が目安です。
名護市コミュニティバス「なご丸」は、名護市内の移動に便利なバスです。 名護博物館へアクセスする際にも、「名護博物館」停留所が目の前にあり、非常にスムーズに移動できます。
名護バスターミナルから「循環線(右回り)」に乗車し、約18分で「名護博物館」停留所に到着します。運賃は1回の乗車につき200円です。お帰りの際は、「循環線(左回り)」を利用すると、名護十字路(約7分)や名護バスターミナル(約28分)へ戻ることができます。
新しくなった名護博物館で、ぜひ「やんばるの心」に触れるひとときをお過ごしください。
住所:沖縄県名護市大中4丁目20−50
電話:0980-54-8875
開館時間:10:00~18:00
休館日:毎週月曜日、祝日(一部除く)、年末年始